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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)4139号・昭52年(ワ)8958号・昭52年(ワ)7965号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

四そこで、前記各賃料増額請求の時点における本件各建物部分の相当賃料額を検討する。

1 まず、本件建物及び本件賃貸借の成立に関する経緯等について検討するに、<証拠>によれば、次の事実が認められ、その認定を覆すに足る証拠はない。

(一) 本件建物は、京王帝都井之頭線富士見ケ丘駅至近に位置し、鉄筋コンクリート造四階建店舗兼居宅であり、一・二階は店舗として、三・四階は居宅として使用されている。近隣地域は、富士見ケ丘駅を中心として日用品、食料品、飲食店等の重担する路線商業地帯であるが、その背後は一般住宅の建並ぶ住宅地域を形成している。本件建物一階部分は通称富士見ケ丘駅前マーケットといい、そのマーケット内で被告高山は食料品店を、被告渡辺は食肉店を、被告松川は魚店を、被告藤田は鳥肉店を、被告清水は雑貨店を、被告斉はクリーニング店を、被告会社は生鮮食品販売店をそれぞれ営んでいる。

(二) 被告中田を除くその余の被告ら等一六名は、かねて原告ら先代小菅十重郎から木造二階建の建物(以下、旧建物という。)を賃借していたが、昭和四一年一二月一八日旧建物が火災に会つたことから、原告ら先代より明渡要求を受けて紛争を続け、昭和四三年八月一日に至つて原告ら及び先代との間で、旧建物賃借人は新建物建築に協力すべく一時退去して、新築後は従前どおり賃借することとし、新築後の賃料については別途協議する旨の合意書を取り交わしたうえ、一時退去した。その後、賃料額について協議した結果、双方不動産鑑定士の鑑定結果に無条件に従うことに決まり、費用折半のうえで鑑定を依頼し、本件建物一階部分の一か月の賃料を3.3平方メートル当たり金二九五〇円、同二階部分のそれを3.3平方メートル当たり金二四六〇円とする鑑定結果が出た。しかし、原告ら先代はこれを不満とし、そのころ右被告らの一部が本件建物部分の引渡を受けてその開店準備をしていたのに対し、自動車、仏壇などを建物の入口に持ち込んだ。このため年末の売り出しが不可能となることをおそれた被告会社、被告高山、同渡辺、同松川、同清水、染谷誠、井澤正夫らは、原告ら先代との間で、賃料を一か月3.3平方メートル当たり金四〇〇〇円(但し、最初の一年間は一割引きの金三六〇〇円)とし、保証金は3.3平方メートル当たり金六万円とするか金七万円とするかについて後日双方協議のうえ定める、本日から二五日以内に公正証書を作成する旨合意をした。ところがその後公正証書作成段階において一部賃借人との間でまた紛争が生じたため、原告ら先代から民事調停の申立がなされたが、不調となり、原告らは、当庁に対し、被告渡辺外三名を相手どつて建物部分明渡請求の訴を提起し、昭和四六年(ワ)第四一七三号事件として係属し、被告高山、同松川、同清水、同藤田、被告会社らがこれに補助参加し、昭和四八年一二月一四日前記裁判上の和解が成立した。右和解の主な内容は、昭和四三年一二月二二日以降和解成立までの賃料を一か月3.3平方メートル当たり一階部分について金五〇〇〇円、訴外高賀が賃借する二階部分について金四五〇〇円、和解成立後の賃料は前記一のとおり一階部分について一か月3.3平方メートル当たり金五七〇〇円、右二階部分について同金五二〇〇円とし、物価の上昇その他諸般の経済事情に応じ二年ごとに賃料の改定を行うものとすること、保証金は3.3平方メートル当たり金七万円(金六万円当たりの金額は支払ずみ)とする旨の内容であつた。右被告らは、右和解に当たつて、右賃料額は高額であると考えたが、右被告ら訴訟代理人から二年後の値上げのときに調整することを含みとすることでどうかと説得されて、和解に応じた。しかし、原告らにおいて被告らが主張するようにそのような含みを了解していた事実は本件全証拠によるも認めることができない。

(三) 二年後の昭和五〇年一二月、原告らは被告らと賃料の値上げについて協議したが、不調に終わり、一部被告らは、昭和五一年一月一日から毎月、3.3平方メートル当たり金六〇〇円増額の金六三〇〇円として算出した賃料額を原告ら宛に送金し、現在に至つている。

2 次に、前記各賃料増額請求により増額された相当な賃料額について検討する。

(一) まず、成立に争いのない甲第一号証(以下、中見鑑定という。)は積算方法(差額配分方式)による算出をなし、昭和五〇年一二月二五日時点における本件(一)ないし(七)建物部分の一か月の賃料額を原告ら主張どおりの金額と算定しているが、敷地価格の査定に当たつて近隣の取引価格等に事情補正、時点修正、地域格差による修正等を施した過程が明確でなく、また<証拠>に照らすと公租公課の数値にも疑問があるうえ、その公租公課の全額を一階部分の必要経費として見積もつている点にも問題があることなどに鑑みると、中見鑑定はにわかに採用できない。

次に、成立に争いのない乙第二四号証(以下、飯島鑑定という。)についてみるに、飯島鑑定は、スライド方式と差額配分方式と比準賃料方式との三つの方式による算出をなし、スライド方式を標準として算出するのが妥当としたうえ、本件建物一階部分の昭和五〇年一二月二五日時点における賃料を一か月3.3平方メートル当たり金七四五五円と認定している(なお、前記増額請求にかかる価格時点の昭和五二年六月六日現在における賃料額を飯島鑑定の基礎数値をもとに消費者物価上昇率をスライドさせて算出すると、総理府統計局発表の消費者物価指数は昭和五〇年を一〇〇とした場合昭和四八年一二月78.3、昭和五二年六月が118.7であるから、それは金八五四〇円となる(公租公課は昭和五一年度の分を加算した)。)。しかし、スライド方式による算出は、本件賃貸借成立の経緯が考慮されていないから、飯島鑑定をそのまま採用することはできない。また、前掲甲第五号証の本件(八)建物部分に関する鑑定書もスライド方式によるものであるから右と同様の理由により採用することはできない。

次に鑑定の結果(以下、田坂鑑定という。)についてみるに、田坂鑑定は、積算法(差額配分方式)と賃貸事例比較法とによる算出をなし、前者を相当とし、本件(五)ないし(七)建物部分の昭和五二年六月六日時点における賃料を一か月一平方メートル当たり金二四三八円(3.3平方メートル当たりの金額を算出すると金八〇四五円となる。円未満切捨、以下同じ。)と、本件(一)ないし(四)建物部分の同年九月二日時点における賃料を一か月一平方メートル当たり金二四六六円ないし金二四六七円(3.3平方メートル当たりの金額を算出すると金八一三七円ないし金八一四一円となる。)と、本件(八)建物部分の昭和五三年一月一日時点における賃料を一か月一平方メートル当たり金一九〇七円(3.3平方メートル当たりの金額を算出すると金六二九三円となる。)と認定している。この田坂鑑定は、近隣の賃料事例を考慮していない点に問題があるものの、本件建物及び敷地の基礎価格、期待利廻り、変動率等の基礎数価及び試算の方法において一応適正なものと認められるので、積算法による賃料額をみるうえでは妥当なものといえる。

(二) 進んで、近隣の賃料事例についてみるに、<証拠>によれば、近隣建物の支払賃料は昭和五一年から昭和五三年一月までの間で一か月3.3平方メートル当たり金四〇〇〇円から金八〇〇〇円までの間に分布しているが、その賃料水準は昭和五一年時点で一か月3.3平方メートル当たり金七〇〇〇円前後であること、近隣の賃料の改定動向をみると昭和四八年から昭和五〇年の二年間で約一五パーセントから二〇パーセント前後の上昇率であることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

ところで、被告らが特に勘案すべきであると主張する富士見ケ丘センタービルについてみるに、<証拠>によれば、同ビルは本件建物の真向いにある鉄筋コンクリート造地上四階建の建物で、その一階部分は、飲食店等の店舗として使用され、本件建物より約八年遅く建築されているのに、同店舗の昭和五二年六月時点における賃料は一か月3.3平方メートル当たり金六〇〇〇円と比較的低額であるが、これは当該賃貸借成立の際の特殊事情によつて特に廉価に定められたものであり、また3.3平方メートル当たり金四〇万円という高額の敷金が提供されている(ちなみに、右支払賃料に共益費と敷金の運用利益(年七分で計算)を加算した実質賃料は一か月3.3平方メートル当たり金八七五三円ないし金八七九一円となる。)ことが認められるから、富士見ケ丘センタービルはその位置、用途において類似性があるものの、契約内容の類似性に問題があるので、これから賃貸事例比較方式により算出された比準賃料を基礎として相当賃料を決定するのは相当でなく、富士見ケ丘センタービルの賃料は参考とするにとどめる。

(三) 以上によれば、前記各賃料増額請求により増額された相当賃料は、田坂鑑定による賃料額を基礎として、先に認定の本件賃貸借成立の経緯、前記和解時から右請求時までの物価の上昇、公租公課の負担の増大等を考慮に入れ、さらに前認定の近隣の賃料をも参考にして決するのが相当である。しかるとき、本件(一)ないし(七)建物部分の昭和五二年六月六日ないし同年九月二日時点における賃料はいずれも一か月3.3平方メートル当たり金七五〇〇円、本件(八)建物部分の昭和五三年一月一日時点における賃料は一か月3.3平方メートル当たり金六一〇〇円と認めるのが相当である(なお、本件(一)ないし(四)の建物部分の価格時点は本件(五)ないし(七)建物部分のそれと約三か月のずれがあるが、本件の場合特に時点修正を加えないのを相当と認める。)。

(池田克俊)

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